福岡です。本日は「アーンアウト」についてです。
アーンアウト条項とは、買い手と売り手の価格目線が相違している際、それを解決するために検討する手法のひとつです。
M&Aを検討している経営者はアーンアウトをご存じの方も増えてきており、「アーンアウトもお願いしたい。」という話を自らされる経営者もいらっしゃいます。
ただ、検討する際は留意する点もありますので、ご参考にしていただければ幸いです。
アーンアウト条項とは
アーンアウト条項とは、買収対価の一部について一定の目標達成と連動させ追加で対価を支払う方法です。
例えば、売り手企業の業績が非常に伸びている場合に検討することが多いです。売り手企業としては今後の業績の伸びも加味して株価を算出してほしい、一方、買い手企業として計画通りに業績は伸びるのか確証が持てないと考えるので、そのギャップを埋めるためにアーンアウトを検討します。
アーンアウト条項の一般的なメリット・デメリット
売り手企業 | 買い手企業 | |
メリット | ・条件を達成すれば追加報酬を得ることができる | ・未知数な事業(業績)に対する過大な投資リスクを回避できる ・ 一度に多額の資金の支払いを避けられる |
デメリット | ・内容・手続が複雑になり時間がかかる可能性がある ・条件が達成できなかった場合、追加での支払を受けることができない ・基本的には経営者(社長)が引き続き継続勤務することが必要 ・税務面について留意が必要 | ・内容、手続が複雑になり時間がかかる可能性がある ・適切な条件(業績達成条件、評価期間など)を設定することが難しい |
経営者は譲渡後も継続して事業に関わる必要あり
アーンアウト条項を設定する場合、経営者(社長)は譲渡後も継続して事業に関わる必要があります。譲渡後の業績に追加報酬が連動する形なので、退任することは難しいですよね。買い手企業としては、売り手社長に引き続きオーナーシップを持って事業に関わってほしいと考え、アーンアウト条項を求めることもあります。
税務は要注意、手取り額に影響が出てくる可能性もあり
アーンアウト条項において売り手社長が最も留意しなければならない点は税務面です。
株式譲渡の場合、その対価は所得税法上で譲渡所得に分類され、原則20.315%(復興特別所得税及び地方税含む)の申告分離課税となります。
ここで議論となるのが、アーンアウト対価が譲渡所得に分類されるのかという点です。
先に結論を言いますと、現時点でアーンアウト対価を譲渡所得に分類できるという確証はない状況です。
アーンアウトの議論をする際の参考として、平成28年10月6日大阪高裁の判決があり、これ自体は特許持分譲渡の判例なのですが、「追加支払に係る金員は雑所得に該当する」と判示しています。また、国税庁の内部文書でも、アーンアウト対価はその対価が確定した年の雑所得になる旨、示されているようです。
雑所得に分類されてしまうと、他の所得と合算して総合課税となり最高税率約55%です(累進課税)。
したがって、税務面を考慮せずにアーンアウトで話を進めてしまうと、結果として税金分手取り額が目減りしてしまうことがあるので要注意です。この点は買い手企業にとっては関与ない部分ですので、売り手の方が自ら留意する必要があります。