福岡です。前回までは売り手準備、買い手準備についてお話させていただきました。今回はマッチングについてお話したいと思います。以下がM&Aの一般的なプロセスです。
マッチングフェーズは、簡単に言えば相手探しです。売り手としては、数社の買い手と接点を取り、その中から本格的に話を進めていく買い手を選んでいきます。
買い手候補先の選定方法
仲介会社などのM&A専門会社にアドバイザーを依頼している場合、M&A専門会社が買い手候補先のリスト(ロングリストと呼ばれます)を作成してくれます。M&A専門会社が保有している買い手情報をベースに作成されることが多いです。言い換えれば、買収意欲の高い企業がリストに並び、売り手企業との相性よりも成約する確度などが優先される場合もゼロでないので、売り手としては内容を確り精査する必要があります。もちろんですが、売り手はM&A専門会社に買い手に求める条件、希望先があればその企業名などを確り伝え、リストのアップデートを繰り返す必要があります。売却希望先がある場合は、そちらから打診していきます。
また、打診NGの企業名は必ず伝え、最終的に完成したリストに打診したくない企業が入っていないかどうか確認しましょう。売却を検討していることを知られたくないという理由で親密な取引先や競合他社を打診NGとする場合も多いですが、そのような近い企業の方が売り手企業の魅力を理解していることも多いので、可能性を狭めないためにも慎重に検討していきましょう。
相対方式か入札方式か
買い手探しの方法は、
- 相対方式
- 入札方式
の2つがあります。
相対方式・・・買い手候補1社ずつに打診する方法。
入札方式・・・複数社に同時に打診し、候補先の中から最も良い条件を提示した買い手候補と話を
進める(≒基本合意の締結)方法
売り手の状況や希望条件によって、どのような方法で進めるか変わってきます。また、入札方式にしたかったけど、複数社が関心を示さない場合なども中小企業M&Aの実務では起こりえます。状況に応じて戦略を見直すこともあり得ると念頭に置いていただけると幸いです。
相対方式のメリット・デメリット
相対方式の場合、基本的には1社ずつ交渉していきます。メリットとしては、直接、自社の強みや考え、買収条件などを提示し交渉をしていくので、関心ある相手に巡り合うことができればスピード感を持って進んでいきます。また、買い手の立場としては相対方式は競争にならないので好まれることが多いです。一方、デメリットとしては、1社ずつ話をしていくので比較検討することは難しいでしょう。また、言い換えると競争原理が働かないので、価格面・条件面で良い条件を引き出すのが入札方式と比べると難しいかもしれません。
相対方式が向いている企業
まずは、売り手として、売却先企業の候補が具体的に固まっているのであれば、相対方式が向いています。直接自分たちの考えを伝えることができるので本気度が伝わる、また、買い手としても他の企業に話をせずにうちだけに打診してくれているというのは真剣に検討するひとつの材料になるはずです。
二つ目として、情報漏洩は絶対にしたくないという売り手も相対方式が向いていると言えます。入札方式では、情報を数社、数十社に一気に開示するため、情報漏洩の可能性が高まります(少し話はそれますが、秘密保持契約があっても情報漏洩する可能性をゼロではありません。悪意を持って漏洩すると言うよりも、売り手の情報を集める中で漏れてしまう、社名を言わなくとも特徴でわかってしまうなどもあります。)。
最後に、赤字・債務超過など、一般的に売却が難しいと考えられる企業も相対方式で進めるのがベターだと考えます。正直、上記のような企業に関心を示す買い手は多くないのが事実ですので、そもそも入札方式が成立しないことが多いです。
入札方式のメリット・デメリット
入札方式の一番のメリットは、競争環境を作れるということです。M&Aは需要と供給があり初めて成立しますが、多くの需要がある(≒入札が多く入る)場合は、売り手優位の交渉となる場合が多いです。
デメリットとしては、相対方式のメリットの裏返しですが、相対方式と比べて情報漏洩の可能性が高まる、多くの企業から照会などが入ると手間・時間を要する、などが挙げられます。
入札方式が向いている企業
より良い条件、高い価格での売却にチャレンジしたいという売り手は入札方式で進めるのが良いでしょう。利益率が高い、今後伸びる業界、ニッチな業界でトップシェアなど、第一印象で多くの買い手が興味を示すような企業はぜひ入札方式で良い条件を引き出していただきたいです。