福岡です。前回は売り手準備についてお話させていただきました。今回は買い手準備です。
改めての掲載ではありますが、以下がM&Aの一般的なプロセスです。
買い手のプロセスとしては、M&A仲介会社などが売り手の情報を買い手に持ってくる(≒ノンネームシート受領)ことから始まります。では、「買い手はただ情報を待ってればいいんだ。」となりそうですが、それでは良い検討はできません!
買い手が準備段階で行うこと
買い手としては多額の資金を投じてM&A(買収)をするわけです。当たり前ですが、会社全体の経営戦略に沿って買収を行う必要があります。ですので、良い譲渡案件に巡り合った際に迷いなく、スピーディに検討開始できるよう以下の点を理解・整理しておくことをおすすめします。
- 100点満点の会社はないという認識を持つ
- なぜM&Aをするのか整理する
- 価格面の考え方を整理しておく
以下で順に説明させていただきます。
100点満点の会社はないという認識を持つ
こう書くと売り手様に失礼に聞こえるかもしれませんが、そのような意図では決してございません。そもそも、売り手企業と買い手企業はこれまで別々に経営されてきたのです、売り手は買い手の経営方針や考え方をベースに事業を展開してきたのではないので、買い手が求める100%の条件ということはあり得ないはずです。
例えばですが、「従業員の平均年齢が少し高い」、「設備が古い」「店舗数が少し少ない」などの理由で検討をストップする買い手もいます。これは買い手の判断であるので、そこについて何か言う権利はありませんが、少しもったいないかなとは思います。M&Aしてから改善できる点は改善すればいい、そのくらいに感覚をお持ちいただけるといいのかなと思います。そうでないと、一生M&Aはできないと思います。
M&Aはよく結婚に似ていると言われますが、結婚相手が100%理想の相手、欠点ひとつもなしというのも難しいですよね、、、!
また、結婚とは異なり、M&Aには価格がつきます。良い条件、理想の条件は価格が高くなる傾向が強いです。「事業内容、社員の質などは100点満点だけど、価格が少し高いな」という話もそれなりに聞く話かもしれません、こういった意味でも買い手目線で価格も含めて100点満点というのは難しいと考えます。逆に、もし100点満点の会社に巡り合えたら、迷わず話を進めましょう!
なぜM&Aをするのか整理する
当たり前の話ですが、M&A(買収)は「目的」ではなく「手段」です。M&A(買収)して終わりではなく、そこからがスタートです。
なぜM&Aをするのか、そこしっかり整理しておくことが必要です。
企業としての明確な目標やビジョンがあるが、現実は目標やビジョンとギャップがある、それを埋めるためにM&Aという手法を活用する。これが買い手の思考回路だと思います。
また、これは「100点満点の会社はない」という話に通じますが、1回のM&Aで目標に到達しようとするのではなく、数回のM&Aを通じて目標やビジョンに近づくのが現実的です。
例えば、シンプルな例で言えば、飲食店をやっていて中部エリアに展開したい、これをM&Aを活用して進めたいとなったとき、1社で中部エリア全域をカバーしている売り手はそうないと思います。一方、今回は岐阜、その次は新潟・・・であれば相手が見つかる可能性、良い相手に巡り合う確率が高くなるはずです。
あとは、目標・ビジョンを何年で達成したいか、それも考える必要があります。極論、時間をいくらかけてもいいのであればM&Aせずに自社でゼロから始めた方が確実だと思います。
「マーケット環境的にいまが勝負、時間を買う意味でM&Aを実施したい」、このような時間軸の考え方も重要です。
最近は上場企業の中期経営計画などでも「M&Aの推進」というワードをよく目にしますが、その言葉だだけがひとり歩きするのは本末転倒だと個人的には考えています。
価格面の考え方を整理しておく
M&Aの価格(株価)の考え方に絶対にこれ、というものはないです。企業価値評価の代表的な方法としても、「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」と大きく3つあります(ここでは企業価値評価の話は割愛させていただきます。)。いざ検討する際にスピーディーに対応できるよう、自社のスタンスはある程度決めておいた方がいいかもしれません。
例えば、営業利益の●倍までなど、上限だけでもいいかもしれません。M&A巧者として有名な日本電産は、「EV/EBITDA倍率は7倍以内」という原則ルールがあるようです(参考:日本経済新聞2019年6月11日「ビッグBiz解剖(上)M&A無敗 日本電産の掟〔外部〕」)。
というもの、M&A仲介会社などからの紹介案件は、入口で高い価格を提示されることもあり得るので、そういう意味でも最低限の自社の判断軸は持っていた方がいいと思います。