福岡です。今回は「価値」の話をさせていただこうと思います。M&Aの話をしていると、「企業価値」、「事業価値」、「株式価値」など、様々な「価値」が登場します。どれも企業の価値を表すものですが、それぞれの価値は大きく違っていまして、この違いを正確に理解することは非常に重要です!
売り手企業、買い手企業、アドバイザーなど関係当事者全員が同じ認識を持っておかないと、大きな認識相違を招き、損失を被る可能性さえあります。先日、ある買い手企業の方と話をしている中でも、この価値に関する認識にズレがありました。今回はその事例も交えながらご説明させていただきます。
株主価値、事業価値、企業価値とは
はじめに、それぞれの価値についてご説明をしたいと思いますが、以下のように視覚的に捉えるとわかりやすいと思います。非常にざっくり説明すると以下のようになります。
事業価値:本業の儲けを表す価値
非事業価値:本業と関連性のない資産の価値(株式投資や不動産、余剰現預金など)
債権者価値:債権者から借入している金額
株主価値:株式の価値
上記4つの価値のうち、3つが確定すれば残り1つが計算できます。計算自体は簡単ですが、この考え方は企業価値評価とも関連する話で、非常に重要です!
企業価値評価(バリュエーション)との関係性
M&Aにおける企業価値評価は大きく3つに分けられますが、評価方法によって求める価値が異なります。
評価方法 | 算出する価値 |
コストアプローチ (代表例:純資産+営業権法) | 株主価値 |
マーケットアプローチ (代表例:EBITDAマルチプル法) | 事業価値 |
インカムアプローチ (代表例:DCF法) | 事業価値 |
詳細な説明は控えますが、マーケットアプローチとインカムアプローチは株主価値ではなく、事業価値を算定する手法ということです。
株式譲渡であれば最終的に株式価値を求める必要があります。例えば、EBITDAマルチプル法で評価する場合は、まず事業価値を算定し、非事業価値を足し、有利子負債を引くことで株式価値を求めることになります。
例えば、事業価値:50、非事業価値:20、有利子負債:10の場合、
株式価値=事業価値+非事業価値-有利子負債
=50+20-10
=60
となります。
買い手、売り手の交渉の中では、お互いどの価値に着目しているかが重要です!
先日、ある買い手の方と交渉したときの事例について少しお話します。以下、簡単な譲渡希望企業(売り手)の情報です。
・株式譲渡を希望
・希望株式価値:100
・非事業資産(不動産):35
・有利子負債:なし
・EBITDA:20
買い手の初期的反応は価格が高いということで、考え方を聞いてみると、「当社はEBITDAの3倍を価値と見ています、EBITDAマルチプルをベースに考えています。」ということでした。
ここで先に結論をいうと、買い手は株式価値と事業価値を混同していました。買い手はこれまでM&Aの経験がなく、webなどで勉強しながらEBITDAマルチプル法で検討していたようです。
買い手はEBITDAの3倍=20×3=60に対し、希望株式価値100なので高いと考えたようですが、売り手には非事業用資産があるので、60+35=95が教科書的には正しい計算です。
もし、売り手が株式価値や事業価値の考え方を正しく認識していなく、その買い手に対して適切な打ち返しをできなかった場合、売り手は損をすることになります。
したがって、売り手も最低限の知識を持っておくことが非常に重要です!