福岡です。M&Aの契約書(株式譲渡契約など)には「補償条項」というものが規定されますが、皆さまは「補償条項」をご存じでしょうか?
「補償条項」は株価と同じくらい重要な話である一方、一般的に話題に上がることは少ないかと思います。
「補償条項」は売り手オーナー社長の金銭的な損害にも関わる内容ですので、必ず概要は理解していただきたいです。
「補償条項」とは
補償条項とは、M&Aの相手方の契約違反や表明保証違反が起きた際に、損害賠償や被害の補填を相手に請求できることを言います。
一般的なM&Aの契約書(株式譲渡契約書)ひな形にも「補償条項」が規定されていることがほとんどですが、ひな形通りで契約をすることは非常に危険です!
当事者が認識している特定の事象については契約書に明記する!
ひな形なので当たり前ですが、「補償条項」のひな形には当事者の個別事情は反映されていません。したがって、当事者が認識している特定の個別事象については契約書に追記する必要があります。
具体例の方がわかりやすいと思うので、ひとつ事例を記載させていただきます。
・売り手企業は顧客との間で訴訟になりそうな事案がある。
・その事案については、デューディリジェンス(※)にて買い手に内容を共有済み。
その結果、買い手は重大な事案として株価を引き下げることとした。
・契約書ひな形のままだと、訴訟による損害賠償は売り手が負担することになっていたので、当該事案は売り手負担としないことを契約書に追加規定。
⇒株価を引き下げることで当該訴訟に関するリスクは売り手がすでに負担しているため
(※)デューディリジェンス:買い手による売り手企業の実態を把握する事前調査
上記の事例において、万が一デューディリジェンスによって判明した訴訟事案を契約書に記載しなかった場合、売り手は株価が下がったうえに、さらに当該訴訟の損害賠償額も負担することになるのです。
M&A後に損害賠償額を負担することは、実質的に株価が引き下がることと同じような経済効果です。その意味で、補償は株価と同じくらい重要な話なのです。
補償は論点が多い
補償条項は論点が多い項目です。
例えば、補償額の上限と下限の設定や、補償の期間なども非常に重要です。
補償の上限を設定しないと、(可能性は低いですが、)株価以上の損害賠償が発生した場合、売り手オーナー社長がマイナス収支になってしまいます。
また、補償の期間をしっかり設定しないと、いつまでも補償請求されることを気にしながら生活しないといけません。これではM&Aによって銀行の個人保証が解除できてもあまり負担感は変わりませんよね・・・
ひとまず、「補償は株価と同じくらい重要!」と理解いただき、細かい点は専門家に相談していただきたいです。
契約書は必ず自社でも弁護士などに依頼してチェックする
M&A仲介会社に依頼してM&Aを進める場合、仲介会社が契約書を準備してくれることが多いと思いますが、必ず自社でもしっかり確認する必要があります。
仲介会社はあくまで中立的な立ち位置なので、売り手企業に寄った契約内容で準備はしてくれません。また、デューディリジェンスの内容などが加味されていない契約書が準備されていることも可能性としてあります。
特に補償条項は売り手企業(オーナー社長)がメインとなるので、売り手の目線でしっかり確認することが重要です。