福岡です。今回が初めてのコラムになります。事業承継(じぎょうしょうけい)が話題になっていますが、なかなか知り合い同士でも気軽に話せる話題ではないために、知識を得る機会も少ないと思います。今回は、一番入り口の話です。
事業承継の定義
事業承継とは、「企業の技術やノウハウ・創業時の想いなどを次世代に繋ぎ、企業の成長を加速させること」です。
中小企業の社長さんと話をしていると、「うちは息子が社内にいるから事業承継は大丈夫。」とおっしゃることがあります。近年は親の会社を子どもが継がないケース、入社しないケースも多いので、子どもが社内にいらっしゃることは心情的にも心強いですし、恵まれた環境だと思います。
ただ、子どもなど親族が社内にいるから事業承継は心配ないわけではなく、様々な視点から計画する必要があります。
事業承継は手段であって目的ではない
子どもなど親族に事業承継するのは「所有」(株式)でしょうか?「経営権」でしょうか?または両方でしょうか?事業承継で実務的に行うことは、社長のポジションを譲る、株式を譲渡するなど、それ自体はそこまで難しいことではありません。しかし、重要なのは事業承継を実施した後の会社の将来です。硬い表現になってしまいますが、事業承継は手段であって目的ではないです。
企業の将来のパターン
あと、事業承継と聞くとなぜだかネガティブなイメージがしますよね?なぜなのでしょうか?
日本人的な思考な気もします。しかし、企業の将来は基本的に
①事業承継、②IPO(新規上場)、③清算、④倒産
のどれかです。こう見ると、事業承継はずっとポジティブですよね。
「所有」と「経営」を分けて考える
日本に存在する企業のうち99%が中小企業です。中小企業は日本の発展を支えてきた重要な存在です。
突然ですが、「株式会社は誰のものですか?」と質問を日本人全員にこの質問をした場合、おそらく一番多い回答は「社長」でしょう。
日本は99%が中小企業であり、その多くが社長自らが自社株を保有しているオーナー企業です。ですからオーナー企業であれば、「会社は社長のもの」という回答はあながち間違いではありません。
ただ、正確に上記質問に回答するのであれば、「株主」が正しいです。
すみません、少し話がそれました。事業承継においては、この「所有」と「経営」を分けて考えることが重要だと思います。上述した「うちは息子が社内にいるから事業承継は大丈夫。」と話をする社長も、「所有」と「経営」を分けて考えているならひと安心です。
実際に事業承継をした会社の中には、
・「所有」も「経営」も息子に承継したケース
株も息子に譲渡。代表取締役も息子に交代。
・「所有」を第三者に、「経営」を息子などに承継したケース
株は第三者(別の企業)に譲渡。代表取締役は息子に交代。
など様々なパターンがあり、それぞれの会社で最適解が異なってきます。
(会社の事業承継とは別の話になりますが、オーナー企業の場合はオーナー(社長)の個人資産の承継も非常に重要な論点です。これは別の機会に触れます。)
「所有」と「経営」の承継は同時でなくても良い
法人の場合、
・「所有」の承継は株式譲渡
・「経営」の承継は代表取締役の交代
がわかりやすい代表例だと思います。
これら2つは必ずしも一緒に承継しなくてはならないということはありません。代表取締役を交代した時点でオーナーがまだ株を100%所有していて、徐々に株を譲渡していくことも可能です。これは「所有」と「経営」が別であることを理解していればお判りいただけると思います。
株式についての知識が必要
株式譲渡についての注意点は、株主は取締役を選ぶことができ、株主から選ばれた取締役会で代表取締役を選定します(取締役会設置会社の多くの場合)(取締役が1名という法人もあります)。このことを理解して事業承継を進める必要があります。
株式を第三者に譲渡した場合、株主が変わったタイミングで新たな株主が指名する代表取締役に変えられてしまう可能性もあります。そうした株式のルールを知ったうえで計画を立てないと「創業時の想いなどを次世代に繋ぎ、企業の成長を加速させること」を達成できないことになります。
株式購入資金の問題
株式譲渡についてもう一つの注意点は、「所有」を承継する際には、株を購入する資金の問題です。
株式譲渡とは言っても、あげる・貰うという事ではなく、売る・買うという取引だからです。株価の算定方法はいくつか計算方法がありますが、適正時価で売買される必要があります。その適正時価は優良企業ほど高くなり、一個人が払える金額ではないケースが大半です(もちろん金融機関借入なども検討できます。)。親族内承継の場合は株価下げたい、M&Aの場合は株価上げたい、というのは譲渡企業の考えだと思いますが、事業承継の場合の相続税評価額を下げる話はオープンにはしにくいので、削除させていただきました(もちろん金融機関含めそういう提案もしていますし僕も銀行にいたとき話していましたが、事業承継の話で「株価下げる」とか「節税」というキーワードは提案書などにも記載してませんでした、、笑)。
結局のところ事業承継は想いが柱
優秀な社員がいるので社長は任せたい。けれど、その社員が株式購入の資金がない。というケースもあります。このケースでは社長ポジションをその社員に承継することは可能です(新たな株主の意向次第)。
ある意味、会社として後継者が育っていることは幸せなことと言えます。あとは、それを実現するために専門家と事業承継の策を練ることに専念できます。
最初に述べた通り、事業承継とは、「企業の技術やノウハウ・創業時の想いなどを次世代に繋ぎ、企業の成長を加速させること」です。どういう方法を取るかはこの想いの部分を今一度整理して様々な選択肢があることを知った上で、選択する必要があります。専門家に相談する際も、その想いの部分を一番に伝えて欲しいです。そして、その想いに共感してくれる専門家と話を進めましょう。実際、M&A業者には「とりあえずマッチング」みたいに会社をモノとしかみていない人もいるので、、、こういう表現にさせていただきました!