福岡です。先日、あるオーナー社長から事業譲渡についてご質問をいただきました。その質問がM&A実務でよく話に出てくる内容であり参考になると思いましたので、本日はその内容をコラムにしたいと思います。
オーナー社長からお聞きした背景と質問内容は以下の通りです。
・オーナー社長はA社を経営しており、A社はa事業と不動産一棟を所有。
・オーナー社長はM&Aによる譲渡を検討中。譲渡理由は将来的な後継者不在。
・M&A仲介会社(以下、X社)にサポートを依頼。色々と相談をして株式譲渡でのM&Aを検討することに。
・X社が買い手を探し、買い手候補B社が浮上、B社と面談実施。
・面談後、X社の担当者から、「改めて色々検討すると株式譲渡よりも事業譲渡の方が社長にメリットがあると思うので、事業譲渡でどうですか。」と話があり。
・このタイミングで私がオーナー社長と接点いただく機会があり、「事業譲渡の方がいいの?」と質問いただく。
株式譲渡と事業譲渡
以下、ざっくりとした株式譲渡と事業譲渡の概要です。
株式譲渡・・・会社(株式)の譲渡。A社をまるごと譲渡するイメージ。
事業譲渡・・・事業の譲渡。A社自体はオーナー社長に残り、事業のみ譲渡するイメージ。
事業承継であれば株式譲渡が有効
後継者不在の事業承継の場合、株式譲渡が一般的には有効です。事業譲渡の場合、事業を譲渡しても会社がオーナー社長の手元に残ることになるので、この扱いをどうするか論点が残ります。
本事例の場合、例えば、オーナー社長の意向として不動産は引続き保有したいなどがあれば、その受け皿としてA社を活用することができます。ただ、不動産を所有するA社の将来的な事業承継課題は残ります。
オーナー社長が手取り額を重視するのであれば株式譲渡が基本
実務的にはこの手取り額の話が一番キーになることが多いです。オーナー社長が事業譲渡で進めたいと考えても、手取り額の観点で事業譲渡を断念し他の方法を選択することもあります。
株式譲渡の場合:対価はオーナー社長が受け取ります。税額は約20%です。
事業譲渡の場合:その対価は法人が受け取ります。税額は約30‐35%です(法人税等)。
事業譲渡の場合、買い手→売り手企業→オーナー社長という流れで対価を還流する必要があり、売り手企業とオーナー社長で2回課税が発生します。売り手企業では上述の通り法人税等が発生し、オーナー社長では基本的には役員報酬や配当での還流となるため、累進課税が適用されます。M&A対価は高額の場合が多いので、累進課税は大きな影響をもたらします。
買い手目線では事業譲渡が有利になる可能性が高い
買い手が事業譲渡を好むことが多い理由としては以下2点が代表例です。
- 各種リスクを遮断できる
事業譲渡は会社まるごとの譲渡ではないため、売り手企業に存在する税務、法務、労務などのリスクを引き継がなくて済みます。
- のれんを損金計上できる
事業譲渡の場合、のれんを損金計上できるので、株式譲渡と比べて税務的には圧倒的に有利です。
以上、株式譲渡と事業譲渡を比較する上での代表的な話を記載しました。
ここで冒頭のオーナー社長の質問に戻りますが、「事業譲渡の方がいいの?」はいかがでしょうか?
本件の場合、売り手社長としては株式譲渡の方がメリットあるように思います。
譲渡理由が事業承継であること、手取り額が多いに越したことないこと(本来は正確に計算する必要があります)、そもそも事業譲渡にするメリットはほぼないように思います。M&A仲介会社の担当者が事業譲渡を勧めてきた理由としては、買い手からの提案だと思います。
買い手として、①不動産は譲受したくない、②何らかのリスクを見つけた、③のれんを損金計上したい、などを考えた可能性があります。
以上のようなことを知っているか知らないかで手取り額などに大きな差が出る可能性もありますので、スキームなどはM&Aの専門家にしっかり相談することをお勧めします。
(今回のコラムは株式譲渡と事業譲渡の比較における代表的な話を中心に記載しております。)