編集長です。今回は、なにかと話題のインボイス制度について、何がこんなに混乱している原因なのかを書いていきます。特に購買、調達の立場の事業様方には最後まで読んで損はないと思います。
インボイスとは
インボイスとは本来、請求書のことです。今回話題になっているのは、【登録番号】【適用税率】【税率ごとの消費税額】が記載されたものをインボイスと呼んでいます。ですから、従来の請求書ではこの制度が言うインボイスではないと理解して読み進めてください。
そもそも税金として納める消費税とは
単純な例で考えましょう。年に一度だけ販売をする会社Bがあるとします。B社はA社から商品を仕入れ、顧客Cに販売します。
【例1】
A社はB社に対し本体価格70万円に消費税7万円を足して77万円請求します。
当然、B社はA社に対し本体価格70万円に消費税7万円を足して77万円支払います。
B社は本体価格100万円に消費税10万円を足して110万円で顧客Cに販売します。
この取引では、顧客Cから10万円の消費税を預かり、A社に対して7万円の消費税を払いましたので、B社には3万円の預かったままの消費税が残りました。この3万円が国に納める消費税です。
インボイス制度と適格請求書発行事業者
先の例でインボイス制度に則った取引を行うためには、A社が【適格請求書発行事業者】になれば話は単純で取引内容も税額も従来通りです。
しかし、世間がざわついているのは、【適格請求書発行事業者】になる手続きをしない事業者・個人がいるからです(それ自体は悪いことではありません。そういう選択をしても良いと国も認めています)。
また、請求書を受け取った側(お金を支払う側)が受け取った請求書や領収証に適格請求書発行事業者の番号があるか?その番号は本当か?を確認しなければいけないという【払う側に非常に理不尽なルール】が混乱の原因1です。
適格請求書発行事業者でない事業者・個人から請求書を受け取ると企業は・・・困る
混乱の原因2は、【支払う側から消費税が出ていかない】ことです。事業をして会計が分かる方ならば、うなずいていることと思います。さきほどの例1が、もしもA社が【適格請求書発行事業者】でない場合にどう変化するかを書きます。
【例2】
A社はB社に対し本体価格70万円に消費税7万円を足して77万円請求します。
当然、B社はA社に対し本体価格70万円に消費税7万円を足して77万円支払います。のはずが、実際には77万円の本体価格と0円の消費税です(消費税と認めてもらえません)。
B社は本体価格100万円に消費税10万円を足して110万円で顧客Cに販売します。
この取引では、顧客Cから10万円の消費税を預かり、A社に対して7万円の消費税を払いましたので、B社には3万円の預かったままの消費税が残りました。のはずが、実際には払った消費税が0円なので、10万円預かったままです。この10万円が国に納める消費税です。
【例1】と【例2】では、B社がA社に支払った金額は同じです。しかし、7万円国に納める消費税の税負担が増えました。こうなるとB社はきっとA社にこう言います。「【適格請求書発行事業者】になってください。」もしくは、「本体価格の70万円だけお支払いする契約にしましょう。」これがこの夏から本格化する事態で混乱の原因2です。
世間で騒がれているのは、請求書を出す側の対応
混乱の原因3は、請求書を出す事業者・個人がインボイス制度が始まることを理解していない以前に、消費税の概念を理解していないこと。特に個人事業主や副業をしている方が適正な納税について知識がないことです。
これについては、特に副業の方は、お小遣い程度の収入からそれ一本で生活していける収入に徐々にステップアップしていきます。ある一定に金額になったら自動的に税務指導をしてくれるようなことはありませんので、何も知らずに税金も納めないまま売り上げが増えてしまうという状況は多分に起こり得ます。
ネット記事などは、この請求書を出す立場の人たちが混乱する、対応できないという立ち位置の話がほとんどです。
一般課税方式と簡易課税方式と消費税の納税義務免除
混乱3が具体的に何が混乱しているのかを紐解きます。
①平たく言うと年1000万円を超えたことない事業者・個人は消費税の納付義務がありません(消費税額を受け取っていても・・・)。
②次に、平たく年5000万円を超えたことがない事業者・個人は消費税の納付金額は業種ごとに分類されたみなし仕入れ率という係数を売上高にかけて簡易的に計算されます。一般的に簡易課税の方が一般課税より税負担が少ないことが多いようです。
③次に、【例1】の状態。一般課税方式で厳密に各取引ごとに預かった・支払った消費税を計算し1年分集計して消費税の納税額が決まります。
さて、混乱3で一番混乱しているのが①の事業者・個人です。取引先から「【適格請求書発行事業者】になってください。そうしないと弊社が困ります。」と言われるでしょう。その際に【適格請求書発行事業者】になると自動的に今まで納めなくて良かった消費税を国に納めることになります。しかし、【適格請求書発行事業者】になれば、今まで通りの取引が継続できるでしょう。
ここで、消費税を納めると収入が減るから(そもそも本来は収入ではないのですが・・・)【適格請求書発行事業者】にはなりません!と言うと例2の状況が発生します。公正取引委員会がこの状況で、力関係を利用した一方的な条件通達はダメと発表していますが、交渉をすることは禁じていません。消費税相当の支払いを減額されるか、徐々に取引を減らされるという可能性はあります。
最後の混乱の原因4
最後の混乱は、【適格請求書発行事業者】でないと、いきなり消費税として認めない!となると混乱するので段階的に消費税として認めない部分を増やします!というおせっかいなルールです。会計や営業をされている方であれば消費税8%から10%に移行する時の混乱を覚えているかと思います。切り替わる日をまたいだ工事など、契約時期がいつだと8%で・・・など非常に厄介でした。
今回、これが一気にルールが変われば一時の混乱で終わりますが、2023年10月・2026年10月・2029年10月と3段階で施行されます。この経過措置のおかげで喜ぶのは会計ソフトのメーカーくらいです・・・CMいっぱいやってますよね。あれ一度ユーザーを取り込んでしまえば、乗り換えるのが困難だから各メーカーさん必死です。
会計は自分でできるようにしないと税理士に依頼できなくなりますよ
税理士はオンライン会計ソフトの押されて食べられない職業になるとここ数年言われてきましたが、実際にはインボイス制度のせいでというか、おかげでというか、実情はだいぶ異なるようです。
気の利いた税理士事務所は、インボイス制度のチェックが煩雑過ぎるのが目に見えているので新しいクライアントは請けられない状況のようです。これから起業される方は、早め早めに税理士事務所と契約を結ばれると良いかも知れません。
接待交際費をよく使う方は・・・
行きつけの飲み屋さんが【適格請求書発行事業者】になるのかならないのか?早めにチェックしておかないと会社や経理の奥さんに怒られちゃいますよ(笑)こんなに飲んでおいて消費税が出ていかないじゃないっ!てね。