柴山です。前回に引き続き下痢についてお伝えさせていただきます。下痢の原因としては生活習慣から起こる下痢と疾患から起こる下痢に分けられ、今回は疾患から起こる下痢についてお伝えします。
急性下痢の原因
感染性下痢
ウイルス性腸炎
「おなかの風邪」「はきくだし」と言われています。ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが主な原因ウイルスです。嘔吐、腹痛で始まり、続いて水の様な下痢がおこります。ごく微量のウイルスでも感染が広がるため、食品を介さずに吐物や便で汚染された手からドアノブなどを介して感染します。このため家庭内でひろがりやすいのが特徴です。
多くの場合1~2日の潜伏期間の後に発症し、3日から1週間の経過で回復します。ウイルス性腸炎に特別な薬はなく、水分補給と症状を和らげる薬が主な治療となります。
家庭内で感染を広げないためにはドアノブやトイレの水洗スイッチなどの消毒が必要です。アルコールでノロウイルスは死滅しないため消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用います。家庭で使う塩素系漂白剤(キッチンハイターなど)を次のとおり希釈して使ってください。
使用する場所・物:ドアノブ・手すり、感染者が直接触れた場所・物
消毒液の濃度:200ppm(0.02%)
作り方:家庭用塩素系漂白剤10ml(ペットボトルキャップ2杯分)+水2.5L(500mlペットボトル5本分)
使用する場所・物:嘔吐物、便が付着した場所・物
消毒液の濃度:1000ppm(0.1%)
作り方:家庭用塩素系漂白剤10ml(ペットボトルキャップ2杯分)+水0.5L(500mlペットボトル1本分)
下痢がおさまってからも数日の間便にウイルスが排出し続けることがあるため、下痢が治まってから48時間は登校や出勤を控えていただくのが一般的です。
細菌性腸炎
病原性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどが主な病原菌です。発熱や強い腹痛を伴い、粘液便や血便を伴うこともあります。強い便意の割には、下痢便の量が少ないこともあります。
原因となる食品は主に生野菜や加熱不十分な肉、魚ですが、必ずしも原因となった食品を特定できるわけではありません。保菌しているペットから感染することがあります。ウイルス性腸炎と比べヒトからヒトへの感染は少ないです。
病原菌 | 主な感染経路 | 潜伏期間 |
サルモネラ | 生卵 牛肉 鶏肉 爬虫類のペット | 12~36時間 |
カンピロバクター | 加熱不十分な鶏肉 牛レバー | 1~7日 |
腸管病原性大腸菌 | 生野菜、生水 東南アジア、アフリカ滞在 | 12~24時間 |
病原毒素原性大腸菌 | 東南アジア、アフリカ滞在 | 12~72時間 |
腸管出血性大腸菌 | 牛肉 生野菜 | 3~5日 |
腸炎ビブリオ | 生の魚 | 8~12時間 |
慢性下痢の原因
炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎
2か月以上続く下痢、血便が主な症状の原因不明の大腸の炎症です。下痢とともに、血便を併発するケースが多くなっています。発熱などの症状も見られることがあります。潰瘍性大腸炎は国が定めた“指定難病”に該当するため、診断が確定し、一定の条件を満たせば治療費の補助を受けられます。
クローン病
クローン病も、指定難病として国に定められた炎症性腸疾患です。下痢、血便、腹痛などの症状を伴い、10~20代の若い方によく見られます。はっきりとした原因は未だ分かっていません。腸だけでなく、口から肛門までの消化管のいずれの部位にも発症する可能性があります。激しい炎症によって胃腸が細くなり、腸閉塞を起こすこともあります。
好酸球性腸炎
食べ物に対するアレルギー反応が起こり、好酸球という白血球のひとつが胃腸の粘膜に多く集まって慢性的な炎症を起こします。腹痛、おう吐、下痢などが主な症状です。小麦、牛乳、大豆、ナッツ、卵、海産物が原因になることが多いです。原因となる食品が判明できれば、これを除くことで良くなります。原因を同定できない場合は副腎皮質ステロイド剤というアレルギー反応を抑える薬を長期に服用します。
胃カメラや大腸カメラを行い、粘膜の複数箇所を生検することで診断します。
薬剤による慢性下痢
薬剤性下痢は急性発症することが多いですが、高血圧や逆流性食道炎のため長い期間薬を服用している場合には慢性下痢の原因になります。
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気です。下痢のほかに体重の減少、動悸、暑がり、疲れやすさ、手の震え、イライラなどの症状が現れます。眼球突出や甲状腺腫がみられる場合があります。採血検査で甲状腺ホルモンの過剰が認められます。採血検査での肝機能障害が診断のきっかけになる場合があります。バセドウ病の治療にはホルモンの産生を抑える飲み薬の治療を行います。薬の治療が聞きにくい場合や薬の副作用がでた場合はアイソトープ治療や手術を行います。
大腸がん
大腸がんでの便通異常は便秘のことが多いです。しかし、慢性の下痢や便秘と下痢を交互に繰り返す方の中に、大腸がんが潜んでいる場合があります。粘液便や血便がでる際には特に注意が必要です。長期に便通異常が続いているかたは大腸カメラを受けることをお勧めします。
過敏性腸症候群
腹痛や便秘・下痢が数か月以上にわたって続く病気です。自律神経の乱れや精神的なストレスによって症状が悪化することがあります。
下痢の治療法
治療法としては水分補給と薬物治療があります。
水分補給は急性下痢の最も大切な治療のひとつです。口から飲むことができる場合は、室温にぬるくしたスポーツドリンクや経口補水液を少しずつ時間をかけて飲んでください。腹痛や嘔吐のために口から十分に水分補給ができない場合には、医療機関を受診して点滴を受けましょう。
薬物治療では自己判断で薬を飲むと、かえって良くない経過となる場合があります。消化器内科専門医に相談するのがベストです。
このように下痢は誰にでも日常的に起こる症状のため、軽く考えて放置してしまう人が多いです。しかし長く続く場合や血便、発熱や強い腹痛を伴う場合には重篤な病気が隠れている可能性があります。
下痢だけでなく今まで便のお話で紹介した便秘や軟便に関しても、気になることがあれば早めに医療機関を受診させることをお勧めします。
便は私たちの健康状態を表す体からのお便りです。普段からお手洗いの際に便の状態を確認し、体からのサインを見逃さないようにしていけるといいですね。